バックギャモン見聞録1-俺が、俺こそが、バックギャモンだ
注:この記事は2020/10/21 00:38にNoteへ投稿したものをHatenaBlogへ移設し、加筆・修正したものです。
今回は表題の通り私がバックギャモンというボードゲームに辿り着いた足跡について残します。
ヤバい儀式
業務で日中つけっぱなしだったバートルの空調服がようやくお役御免になりはじめた2020年9月中旬。
今日も今日とてYoutubeを映すモニターに、なにやら見覚えのある姿が映る。
将棋プロ棋士の森内俊之"名人"がYoutuberとしてチャンネルを構えて活動している事実を知り、長年の将棋ファンである私は文字通りブッタマゲた。
てっきり将棋のお話中心と思いきや、チャンネル開設のっけから御自身の趣味であるボードゲーム「バックギャモン」についてのチュートリアル動画を公開し、これがインパクト大な普及活動となった。
1996年に休刊した月刊誌「将棋マガジン」がまだ現役だった時代の話。
雑誌連載のコラムでよくある<棋士の休日特集>的なコーナーがあり、そこで森けい二さんや武宮正樹さん(囲碁界のレジェンド、宇宙流)がこのバックギャモンを趣味にしており、そこそこ強いらしい…という情報があった。
かといって特にゲーム内容そのものが紹介されていたわけでもなかった。
何よりもそのお二方は”怪腕”やら”妖刀使い”といった異名がお似合いだったのもあって「バックギャモン」という7文字のカタカナはボードゲームというより何かの占いの類いに見え、そのモノクロ写真にはヤバい儀式の香りが漂っていた。
(上の記事より抜粋した画像。全体の構図が左右対称なので儀式感が伝わりやすいか)
時を戻す。私は、このチュートリアル動画を2~3回ほど観て駒の動かし方を何とか覚えた。(といってもサイコロの目に従うだけだが)
ひとつゲームに勝つと、1点貰える。ゲームプレイの内容によっては多く点をもらえる。"8回1失点"なら2点。"完封勝利"なら3点といったところ。
OK、それは分かった。しかし、森内さんと鈴木環那さんが行っているサンプルゲームを眺めているだけでは『なぜ森内、片上(大輔七段)両プロが国内のバックギャモンのタイトルを獲るまでドハマりしているの?』という私の疑問は解決しないのである。
この時点ではまだヤバい儀式からオシャレな双六に昇格したに過ぎず、こちらはまだ構えを解いていない。
謎の六面体
森内チャンネルのバックギャモン動画は連載企画となっており、
- #6、7 基本ルール説明(ゲーム紹介、駒の動かし方)
- #8~10 実際の試合を撮影したものに初心者向け解説を入れたもの
という進め方になっている。森内"選手"のお相手は望月正行さん。記録係は横田一稀さん。両者ともに海外の大会賞金や指導対局で生計を立てている専業のバックギャモンプロとのこと。望月さんはMochyと呼ばれているらしい。
動画冒頭(試合開始前)に解説役の木原直哉さんが「ダブリングキューブ」について、懇切丁寧に説明してくださっている。
木原さんはテキサスホールデム(ポーカー)の大会で得た莫大な獲得賞金に対して掛かる税金に日々悩んでおられる専業のポーカープロである。
ポーカー以前はバックギャモンで同様の悩みを抱えていたようだ。
今回の試合はエキシビジョンマッチではなく、れっきとしたバックギャモン協会の公式戦で森内"選手"として戦った記録映像とのこと。卓球のように「先に〇点取ったら勝ち」というルールで競う。
動画内で木原さんが両手で扱っているそれは、私にとっては生まれて初めて目にした謎の六面体である。明らかに転がす用途ではなさそうだ。
使用するバックギャモン盤のサイズに比例するようで、私の脳味噌ほどの大きさだろうか。(テニスボールくらい)
ダブリングについてざっくり言うと、
がいつでも使えますよ、というルール。
提示された側が誘いに乗れば、1ゲームで得られる基本点が1から2点になり、お互いにダブルを繰り返すことで4、8、16点…と倍々になっていく。一方で、
形勢が悪いと判断してオリるならば、現在の点数が相手に渡り初期配置に戻って次のゲームへ。
という事で、バックギャモンでの技術介入の要素は
- 出たサイコロの目に合わせて駒を動かすこと(強制)
- 自分のターンでダブルする(任意)
- 相手より出されたダブルにテイクorドロップの返答をする(強制)
の3つに増えた。ややこしい。自分で書いててよく分からなくなってきた。
名調子炸裂
望月-森内戦の途中経過。こちらを観てほしい。
(13分58秒より)
ダブリングの奥深さ・むずかしさをここまで凝縮したものが、わずか十数秒の映像と音声に収まっていることは、ある意味で幸運なことであろう。
このやりとりの中で、
- 望月選手のダブル → 悪手
- それに対する森内選手のドロップ → それを上回る大悪手
という点を木原さんは即断している。
記録係を務めている横田さんは、ひとゲームが終わった後も虚空を見つめ続けている。その首の角度はもの言うよりも雄弁に物語っている。デドン。
私の知っているボードゲームでは、たいてい片方のプレーヤーが盤上の情報を更新されて、それが(一定基準よりも)良いか・悪いかと判断される。
一方バックギャモンのダブリングの場合、現時点での局面と互いの得点状況を自分なりに形勢判断し、
- 出目ひとつで立場が一気にひっくり返り、リダブル(2→4倍)を食らう
- ギャモン勝ち(完投勝利、2点)勝ちできそうな局面を1点勝ちで収められてしまう
というリスクを熟慮して、”相手が受けるか降りるかいちばん迷うところ”を見計らってサイコロを振る前にダブルの宣言をしなくてはならない。
これが盤面の駒の配置だけで済めばいいのだが、仮に同じ配置であってもお互いの得点状況でするべき・しないべきは当然変わってくる。
ダブリングというルールは1920年代に発案されたらしいが、よくこんな悪魔的ルールを思いついたな…という感想しか残せない。
(まだコマを動かしていないのに大悪手と言われるのも、何だかピンとこない)
とりあえず私の中では、友とバックギャモンを語るならば、3ポイントマッチ以上のゲームをやってみようという話に落ち着いた。
黒猫とビーム猫
こちらは国内トップクラス選手である池谷直樹さん家の愛猫「いぺ」さんによる解説。初心者にも分かりやすい解説と落ち着いた雰囲気の声が人気のVtuberである。
上記動画によれば、上記のダブルのやり取りがなければ両選手は非常に高い精度で試合を進めていたことがソフト解析によって証明されている。
木原さんはなぜあの場面で両者の対応を一刀両断できたのかを、順序立てて説明してもらえたことでよりバックギャモンの魅力に近づけたのは言うまでもない。
森内チャンネルといぺチャンネルの動画をチェックしたならば、もはやオシャレな双六なんて言う人はいないだろう。
備考:対戦サイトについて
情報を集めていた当初、JBL(日本バックギャモン協会)が推奨しているということで、Gridgammonという対戦サイトの会員登録を目指した。
しかしJBLの掲示板によるとBackgammonGalaxyに鞍替えしますよという掲示板の書き込みを見つけたので、そちらにユーザー登録することにした。(残念ながら日本語対応ではない)
(実際にこんな配置になったからといって、技の名前が出るわけではない)
これからバックギャモンを始める方でWindowsパソコンが自宅にあれば、このBackgammonGalaxyを利用してみてはいかがだろうか。
追記:現在はスマホ版Galaxyもあります
ちなみにビーム猫とはGalaxyのユーザーアイコンに使えるキャラクター「Twelve」のことで、日本ユーザーの使用率ダントツ1位の人気キャラ(俺調べ)である。
(各アイコンキャラのTシャツも発売されているので、リアル大会用に一着いかが)
おわりに
バックギャモンは人を選ぶゲームであることは間違いない。
カジュアルな世界観から、ダブリングキューブの存在によって一気に"沼"へ引きずり込まれる恐怖に足がすくむプレイヤーも少なくないのではないか?
かくいう私もその一人だった。
だが、勇気を出してその"沼"に足首を漬けてみるといい。意外と温かい。
残念ながら私の周囲には"沼"に漬かっている紳士淑女も居ないので、例によってオンライン対戦しか選択肢がないが、そこは世界プレイ人口3億人のボードゲーム。魅力的なサービスは多岐に渡っている。
日本国内でも、今まさに有志によるコミュニティが育とうとしているところである。